百万分の一は小さな値ではない

2005/02/15
2006/01/02

原子力発電所は安全である。という宣伝がされています。例えば、「原発が事故を起こす確率は隕石が当たって死ぬ確率よりも小さい」などと言う人までいます。

本当でしょうか

工場などの故障を研究している人がいます。故障が起きると生産が止まり損害となるので、部品を定期的に交換する事になります。では部品交換はどの程度の頻度で行なえば良いのでしょうか。新品には初期不良が付き纏います。古い部品は消耗しています。この問題を解決するために、部品の個々の故障頻度の統計と確率論で工場全体が最も収益を上げる交換頻度をはじきだします。

同様のことを原子力発電所でも行なっています。PSA（確率論的安全評価）と言います。電力会社やその他の宣伝を見ると典型的な大事故である「炉心損傷」の頻度は炉・年当り10^-6程度の様です。で、この10^-6という数字を「小さい」と宣伝しています。

原子力発電所のように巨大で複雑なシステムの場合、おそらく故障の形態が複雑になるので、なかなか信頼性の高い数値を出す事は難しいとは思います。工場の故障のような頻度の大きな現象であれば、統計により理論の妥当性を評価する事が出来ますが、原子炉の炉心損傷のように滅多に起きない（起きては困る）現象は現実による評価が出来ていません。が、ひとまず、この数値を信用してみます。

ジャンボ宝くじは1ユニット1000万通りですから、10^-6は10枚買って1等が当たる確率と同等です。宝くじが当たる事を期待する人は原子力発電所が炉心損傷を起こす事を心配して当然と、まずは言えると思います。

次に身近なリスクと比較してみます。平成15年の交通事故による死亡者数は7,702人となっています。同年の日本の人口は127,619,000人ですから、日本に暮らす人は約6×10^-5の確率で交通事故で死ぬ事になります。（違法滞在等を考えると、もう少し値は変わるかもしれません）

原子力発電所の炉心損傷は炉・年当り10^-6ですから、日本に現在ある52基分を掛けると日本全体での一年間の炉心損傷の頻度の期待値は5.2×10^-5くらいとなります。

1年以内に自分が交通事故で死亡することを心配する人は、日本で炉心損傷が起きる心配をして当然と思います。経済産業省は今後、地球温暖化対策として20基ほど原子炉を増やしたいようですが、そうすると、交通事故による死亡の確率を炉心損傷頻度の期待値が随分上回ることになります。

さて、では隕石に当たって死ぬ確率はどのくらいでしょう。ひょっとして交通事故で死ぬ確率より隕石に当たって死ぬ確率の方が大きければ原子力発電所の事故は隕石に当たって死ぬ確率よりも小さいと言えるかもしれません。

隕石が地表に届いて痕跡を残すのが1000年に一度くらいだそうで、10^-3となって、おぉ、原子力発電所で炉心損傷が起きる確率よりも随分大きい。(^_^;

勿論、そんなはずは無く、隕石の落下は世界中に散らばってますので、人間の衝突断面積を大体1m²くらいとして、地球の表面積で割らなければ、人間が隕石に当たって死ぬ確率にはなりません。陸地の面積は1億5000万km²くらいなので、これの逆数になります。計算機があふれた@_@ 10^-18くらいの確率ですね。多分このくらいだと「杞憂」といえると思います。ので、これを「1杞憂」とすると、原子力発電所の炉心損傷は10¹²杞憂（テラ杞憂）となります。原子炉の炉心損傷の発生頻度の期待値は、杞憂というには大きすぎます。

炉・年あたり10^-6という数字が正しいのであれば、炉心損傷の発生と隕石の落下を比較するのであれば、「日本に隕石が落ちる確率」程度と比較するのが妥当でしょう。（野球場では小さすぎます。）

大きいんだか小さいんだかわからない微妙な数字ですけどね。

炉心損傷が起きたからと言ってみんなが急性障害に襲われる訳では無いですし、俺が交通事故で死ぬ確率と比較するのは俺が原子炉の事故で死ぬ確率（交通事故で死ぬ確率に比べればまず間違いなく随分小さい）がふさわしいと思う人も多いでしょう。

が、俺が交通事故で死んでも、日本は困らないけど、日本の真ん中辺りにある原子炉が炉心損傷を起こし、放射性物質を所外放出した結果、東名高速やら東海道本線やら東海道新幹線やらが長期に止まると(例えば、風向きとか運良くて急性障害起こす人が居なくても)世界が困ります。日本の経済は大打撃を受け、間接被害だけでもとんでもない被害になります。で、そんな事態を考えると、100万分の1の頻度ですら、決して小さな値では無い。と思います。

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